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2018. 11. 11

第184(日)農山漁村の建築-1(篠山)

久しく海を越える旅をご無沙汰しているが、今年は、お盆の小値賀島に続き、秋の入り口に、日本の辺境を尋ねるもう一つの機会を経た。兵庫県篠山市。古民家再生に興味のある人であれば、NOTEの業績を知り、この地を尋ねることになる。既に彼らにとってはメッカ的聖地であり、また国策としての日本の歴史的建造物活用の先導を担い、政府は元より日本中からの視察の絶えない地。

集落丸山、という名の宿泊所。価格帯はリゾートホテルや、温泉旅館の類いの良い分類になるが、スタイルとして、ホテルとも旅館ともいうことができず、ましてや、民宿やゲストハウス、という庶民的な類いとも言えないから、宿泊所というしかない。

この日は、残念ながら、台風がまたもや近畿を通過しそうだということになり、1ヶ月前に確保した宿泊の予約をやむなくキャンセルし、日帰りとなる。ここまで来てという感じもするが、自然の成り行きにいろいろな感情を抱いても仕方が無い。道脇のコスモスが慎ましく出迎えてくれて「集落」の様相をますます醸し出している。何も知らないでこの地を訪れるなら、ここが新しいもう一つのリゾートホテルであることに気づくことはないだろう。外観上、視覚的には古き良き日常的な里山の風景があるだけだ。

辛うじて、長靴を履いた集落の人が、「こんにちは」と愛想良くあちらから声を掛けてくる。後から伺って気づいたが、ここは住人がそのままホテルの接客スタッフなのだ。本当なら蝶ネクタイはしていないにしても制服の某かをまとい、お荷物をお預かりします、という形式があるはずだが、ここは違う。里山で仕事をする恰好で出迎えるのが、彼らにとっての最上のサービスなのだ。考えてみれば、少なからずの宿泊費を払えば、かならず、何時もの形式的なサービスを受けるのを、暗黙の了解、というか、期待をしている。なんとなく自分が客として大事にされている気がしている。ここは、そういう期待する、期待されるの常識を、最初から疑うことによって、成立することができたホテルだ。

かつて江戸時代に篠山城主より賜った水源管理の役目を果たしてきた集落であるから、奥の水源地は元より、そこからの清流を含めた風景は確かに日本のふるさとと呼びたくなる。しかし、その風景をひとたび残したいと思った時、宿泊サービスを営み、来訪者を受け入れようと思ったとき、旅館とかホテルというひとつの完成された形式を一掃する勇気のようなものが不可欠だった。美しいからということだけでは、収益プログラムを組み立てることは、当然のことながら難しかった。新しいビジネスモデルを創り出さねば、今日はなかった。

未だに、ホテル運営を努める地元スタッフからは、本当にこんなことで、お金もらっていいのかね?となるらしい。それほどまでに、日本の観光地は、退屈になってきたのだ。提供する側も、される側も、予想されるものがあって、その枠内で繰り広げられるクオリティーの中で、善し悪しの競い合いをするしかなくなっている。古民家の風景を残したい、という素朴な意思によって、このマンネリ化したやり取りに疑いがかかり、そして結果新しいスタイルが生まれる。古い器に併せて、サービスが刷新される。サービスにしたがって、設計されるのではない。建築者にとってはここが却って面白い、と映る。

もう一つ、気づいた。都市に建つ事業用建築は、スタートとゴールがお金だとすると、地域に残された建築が事業として運用されるのは、(手段としてお金が必要となるが、)スタートとゴールは、あくまで建築、あるいは風景だということ。普通は、金銭的利益を計算して初期投資をして、手段として建築が存在する、もちろん疑う必要のない、人間の営為。一方、伝えていきたい建築や風景がもし僻地の類いにあったなら、お金は最終的にはつじつまをあわせなければならないものの、その手前に、建築風景への純粋な愛情と、運営上の勇気が前提になる。だからやはり、首謀者のマインドセットとしては、異なっているのだ。都市に現代建築を作るということと、地方の古民家を用いることの心理的両立がうまく出来ないでいたのだが、NOTEの藤原社長の熱い思いと手法を伺いながら、それら両方を両立させることの意義を確信することができた。

この日は、集落内の「ひわの蔵」という蔵を改修したレストランで最高のフレンチを頂いた。列車の都合で、19:00には現地を絶つことになり、デザートをいただくことができなかったが、こんなところに、こんなクオリティーの食事が出来る、という現代の里山を堪能することができた。(ワイン付きで1.5万円/人)このような新しいスタイルが創造された背景は、残念ながら建築デザイン力ではなかった。古民家に分け入るのであれば、もはや、デザインだけしていても仕方がない。デザインの幅は自ずと拡がらざるおえない。

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