2日ほどまえ、はっとするTV番組を見たので、メモ。
世界一の美食の街、サン・セバスチャン、スペインバスク地方にある人口たった18万人の都市。この人口には心当たりがあって、市町村合併前の佐賀市がおおよそこれくらいだったので、その比較に、夢中になった。
最初は、綺麗な街だな、とか18万人のわりには、佐賀にくらべてトカイだなとか、そういう比較が先行したが、食を通したコミュニティーというか、都市生活の骨格としてとてもユニークな実像に興味が移っていった。この小さな都市に130もの美食倶楽部があって、これは女人禁制で、大の男達が、競って自らの料理を持ち寄り、皆で、食の談義(食べ手としてではなく、作り手として)、そしておそらく様々な情報交換がなされている。
日本でいうと、ロータリーとかライオンズ倶楽部とか、何とか研究会とか、同友会とか、に値するものなのだろうか、しかしちょっと比較にならないものを感じた。ホテルのホールで会費を払って、厨房から出てくる立食を食べ散らかし、各々の集まりの目的のとどのつまりは、各々の島を成すことが関の山の集会とは、まったく次元が違っている。130のそれぞれの美食倶楽部が、それぞれが個々に活動していながらも、結局は、食というただ一つの文化を貫いて、互いにつづれ織りとなって一つの都市が形づくられている。
街には三つ星レストランが3つ、星付きレストランが十数?(忘れた)有るといい、単位都市面積に対する星付きレストランの数は、パリに列び、世界のトップレベルという。マドリードでもなく、バルセローナでもなく、スペイン北部の小さな街が、スペイン料理の新潮流ヌエバコッシーナを先導している。
都市的文化=人口規模、と考えてしまいがちなこの島国の悲しい性からすると、目から鱗の事例だが、サンセバスチャンのこの豊かさの理由には、暗い過去が絡んでいるという。スペインとの独立戦争(スペイン内戦1936-9)とその後のフランコ政権からの強い弾圧(バスク語禁止令など)から、市民同士の団結、集結が自然にうまれ、(ここからが独自・・)美食倶楽部というカタチとなったという。ネガティブな状態からの反動によって、この街は、その種の文化が育っていた。
別の言い方をすれば、外圧によって地方文化の解体が迫られ、却って、地方文化の凝結が起こった。内戦終戦からもう少しで1世紀が過ぎようとしているが、その文化的凝結が、生活の豊かさそのものとなり、街としてアイデンティファイされながら成熟している。街には二万人のコックが居るらしく、まるで彼らによってこの街が営まれているかのような、映像の数々があった。
他でもなく、この街の「食」の部分が「建築」と置き換えられた都市、街があったとしたらどんなものだろうと、想像しながら過ごした。