電車の広告で見つけた、大工がカンナを引いている風景。見流せばいいはずだが、よくよく考えると、益々腑に落ちなくなる。我が国は木の文化と自覚し、国が大工技術の育成を計っていることに全く異論はないが、それにしても、現代の木造現場に、こんな風景はありようもないから、ほとんど、羊頭狗肉の類である。今では殆ど皆無の一昔前の大工の技術風景が、大工養成のためのポスターを飾っている、この因果関係と似たような現象を思い出した。food inc.というアメリカのドキュメンタリー映画の冒頭に、本当は大量生産型の非情な農業システムで産み出された、例えばバターなどの食品パッケージが、常に前世紀的で、牧歌的な農畜村風景のイメージとして描かれるというもの。
少なくとも、事実としてあるのは、大工になりたいという人を惹きつけるのが、現場に転がした木材にカンナをかける古き良き時代の風景であるということ。食料を買う人が安心するためには、仮に装いであっても、家内工業的な産物の雰囲気を持っていること。人々がモノや技術と繋がるイメージや願望はこれなのに、その幕内はそれらの正反対であるということ。現代の製品からいかに量産性の恩恵を得られようとも、わたしたちの多くは、一昔前の手工業を忘れることができないでいること。モノを作り、売り、使うなかに、ホンネとタテマエというように、二重の価値観が使い分けられているということ。
2012. 7. 29