N Building

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カテゴリ
新築 商業施設
敷地
福岡県福岡市東区多の津
用途
事務所ビル《西久大運輸倉庫株式会社本社ビル》
延床面積
専有面積約1257.06平米(381坪)
構造形式
鉄骨4F建
工期
2005/04〜2005/09
工事費
約3億円(消費税込み:設計料別途)
設計
高木正三郎
施工
上村建設株式会社
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天空への階段

道路挟んで平行に流れる多々良川の可動堰施設が、この辺りの風景を圧倒的に支配している。これほどの暴力的な構築物がある限り、これと無縁の美しさを誇る建築は、ここに居ることができないだろう。必要の原理だけが生み出した無神経な強さが、自分よりも華奢な者をアザ笑うように、待ちかまえていた。

そうして最初に思いついたのは、先住民であるキノコ状の構築物のカタチを模すようにして、新しい建築を造形することであった・4階建ての内下2回分を設備+動線コアだけ残して廻りを透明な空間にすることによって、キノコのカタチを創り出そうというものだ。「我が社屋がなぜこんなものの真似をしなければならないのだ」という正論を浴びることを危惧したが、結果的には「面白い」と賛同を受けることができた。ただ、「この案はこれからこの造形を事務所にしていく課程で魅力が半減していくかもしれない」と自ら引き下げた。

それを引き下げてもいいほどに、採用案への理解がスムーズであった。私はこの案を「天国への階段案」と図面に書いておいたが、「上り詰めた鉄板の箱は茶室にしたい」という要望があり、後に「天空庵」となった。いまだからこそいうが、「登りたくなる階段」というのがこの建築の主題だと気持ちを暖めていた。社員の人々が毎日気持ちよく昇降をくり返し、「やせた」などの成果があれば、それをバカにしてはならない。周辺の人々から、一度登ってみたかったというフレーズを聴くこともあるかもしれない。玄関庇である天空門も天上に突出する鉄板の茶室「天空庵」も、この階段を登ってみたくなるための装置である。「あそこはなんだろう」と思わせればそれでこの建物の「建築的な役目」は半ば達成されるのである。

内壁+天井:AEP塗装/ビニルクロス/漆喰仕上げ(ボード下地)
外壁:ガルバリウム鋼板0.4t(特注色)角波
床:カーペットタイル/木フローリング15t
設備:電気+トイレ+エアコン+上下水道

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天上に突出する鉄板の茶室「天空庵」
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ガラスブロックの階段から柔らかい光が入る

鉄骨構造体の設計に関する覚え書き
この建築の構造は、基本的には純ラーメン構造という意味では、特別なものではないが、その柱を通常のコラムを用いずに、全てビルトエイチ(BLH)で行ったところにその特徴がある。
動機は、鉄骨造一般のコラム+被覆→室内に柱型という典型を逃れるための、あくまでも意匠的な動機であったのだが、いざ検討を進めてみると、思いの外合理性を見いだすものであった。それは、昨今の中国における鉄の需要増が引き起こしている不安定な鉄鋼市場に大きく絡んでいる。

この建築の構造を設計中であった2005年2月の段階では、2004年にはじまった上記鉄鋼の不安定市場が続いている状況、つまり、あいかわらず在庫確保の見通しの悪い状態であった。そういった状況は中国の造船受注が元凶であったから、板材からつくりだされるコラムは、その価格と納期が特に不安定な材であった。当時、担当の構造家があるファブから採取した情報には、SSやSN材が全て1,5ヶ月の納期であるのに対してBCR材(コラム)は1~3ヶ月、口頭ではそれをも約束はできない、とのことであった。
6ヶ月後に完成を約束している1200平米の物件を抱えながら、納期(+コスト)に頭を抱える構造家から、H材のみによるフレームの構成がほのめかされた。また、コラムという紋切り型を回避したい意匠設計(筆者)は、コラムでないならHなどの形鋼による構成材、というのは当然発想されるアイデアであった。こうして両者の思いから自然な成り行きで、H材のみによるフレームの検討が始まった。直感的には、BLHを構成するための全長溶接が、コストにどう跳ね返ってくるかが疑問であったが、この十字Hの手法はSRC造で常にやっていることであるので、大きくコストに影響しないことがすぐに解った。むしろ、同じ耐力を得るという条件で、コラムを用いた場合に比べて、BLHの柱の場合は総量で約5トンの鉄量が節約できること、そして、コラムの方がトン当たりの鉄の単価で1.5倍以上高いことなどから、鉄骨工事としてはBLHを採用することによって200万円以上の節約が可能だということが解った。(※1)以上のように、オールH材フレームの利点は、大きく納期とコストにおける話であるが、その程度は全て不安定な鉄鋼市場が導き出していることを再度付け加えておきたい。

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鉄鋼が急騰した2005年の春、鉄骨造を設計する日本中の設計者は納期とコストの不安定に悩まされていたであろうが、今回我々が採用したH材のみによる鉄骨フレームというのは、そういった状況での解決方法の一つとして普遍的な答えの一つではないかと考えられる。短所をあえて上げるなら、耐火塗料を採用した場合は、塗布面積が大きくなるというぐらいで、その他は、室内の角に柱型が生まれず圧迫感がない、H材特有のフランジ部シルエットが美しい、などの意匠的な魅力はコラムでは引き出せないものであると思っている。

※1:当構造体の柱材のみの鉄材料総額を建設物価6月号((コラムとHの格差大)/福岡)で試算すると83000円(H材)×23.7トン=197万円、140000円(コラム)×28.7トン=402万円という差になる。実際はこの200万円に5トン分の鉄骨加工費(コラムの場合)が加えられ差は大きくなる。またBLHの加工費は差を縮める方へ考えるべきだが、これを含めて当時、一鉄骨業者に概算をしてもらったところ、280万円ほど、安く出来るという口頭での回答があった。昨今の鉄骨工事コストに関しては、加工費よりも材料の単価の方が、できあがりのコストに大きく影響していることが伺える。

そののち