地面のこと
敷地は筥崎宮に近いこともあり、行政から「埋蔵文化財包蔵地」に指定された地域にある。「埋蔵文化財包蔵地」とは、歴史好きはロマンを感じるような響きだが、実際はそんなに甘ったるいもんではない。
指定地域では、着工前に行政主体による試掘調査を行う必要があり、基礎や地盤改良などの根切で埋蔵文化財を傷つけないかをチェックされる。もしこれがアウトなら本格的な発掘調査へ移行し、大きな工期の遅れを招くばかりではなく、調査費用は全て施主持ちとなる。「決まりだから仕方ない」では、飲み込みきれない。逃れようのない災害のようなものなのだ。
7月9日運命の試掘調査。出るな出るなと神に祈りながら見守る中、バケットの幅でゆっくりと採掘が進む。深さ1.5m程に差し掛かった時に、調査員が慌てて穴に身を投げた。手持ちのスコップでしばらくカリカリとした後に、「住居跡ですね」とつぶやく。素人目にはただの黄色い土にしか見えないそれが、どうやら遺跡らしい。「ただの土じゃないですか?」とごねるも無駄な足掻きだった。これで発掘調査ルートに移行する訳だが、聞くと前の調査の予定が埋まっていて、半年以上待つとのこと。しかも費用も数百万円かかるとなるとプロジェクト自体が揺るぎかねない。大変まずい状態になった。
しかしよく考えると、要は根切り面が文化財に影響を与えなければ良いわけである。そのため地中の構築物を浅く済ませる方法を色々と模索することにした。スタイロを基礎の下に敷いて、浮力で地中に与える荷重を減らす方法や、コマのようなものを敷き詰めて地盤改良の代わりとするものなど。最終的には、地盤調査そのものを見直すという判断に至った。当初サウンディング調査の結果を元に、地盤改良が必要だと判断していたのだが、サウンディング調査は極めて限られた点の調査しかできないことから、信頼性に欠け、そのため悲観的な調査結果しか出ない。新たに採用したのは、超音波を使って面的に地盤の強度を測定する方法で、実際の荷重のかかり方に近い調査ができることから、地盤改良をなくせるケースが多いらしい。上記のサウンディング調査との違いも、この超音波検査会社からの入れ知恵である。同じ地盤でも調査方法で結果が違うのは、勉強になった。また工務店曰く、サウンディング調査は地盤改良を前提にしているものが多く、特にハウスメーカーによるの物件などは、責任の観点から本来改良が不要な地盤でも、サウンディング→地盤改良の流れに持っていくことが多々あるという。見えない不安に対して出資する類のビジネスが、こんなところに存在していた。
最終的には、調査結果を元に地盤改良不要とし、埋蔵文化財の発掘調査も回避した。工期も予定通りになったことに加え、元々みていた地盤改良コストをカットすることもでき、途中ヒヤヒヤしたが、お釣りが返ってくる結果となった。
米満光平