福岡県酒造組合会館

正面外観

福岡県酒造組合会館

カテゴリ
新築 事務所
敷地
福岡市東区馬出
用途
事務所
建築面積
167.16㎡
延床面積
313.09㎡
構造形式
木造
設計期間
2023/7月〜2024/6月
工期
2024/7/20〜2025/3
設計監理
設計+制作/建築巧房
設計助手
米満光平
構造設計
Atelier742 / 高嶋謙一郎
施工
山下建設株式会社
福岡県酒造組合会館
福岡県酒造組合会館
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福岡県酒造組合会館
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福岡県酒造組合会館
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ガラス欄間越しに、背板を含む、天井に貼られた材の小口(白色塗装)が見える。
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背板による室内機隠し
福岡県酒造組合会館
杉270×90の構造材は、頂部で互い違いのボルト接合とした。それに従い、全ての化粧材も互い違いになる。
福岡県酒造組合会館
引き戸の取っ手
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アツ盛り用の漆喰材料を、場所により、粗密のテクチャーで塗り分ける
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1F事務所とホール、その間の寄木カウンター
福岡県酒造組合会館
『その時工場にある材料』の寄せ木カウンター<タモ、ニヤトー、米杉、栂、米松、アッシュ、ヒノキ>

<福岡県酒造組合>
県内の蔵元60社以上で運営される、組合の活動拠点となる事務所である。50名弱が収容できる会議室をメインの空間としながら、会長室、試験室、小打ち合わせ室、事務室、ロビー空間からなる。
建物全体の形状は、2棟の双堂形式とした。これは、周辺の住宅ボリュームとの連続性といった、街並み〜外観からというよりも、内部空間の形が反映したものである。2Fの平面は大きく階段〜廊下部と2執務室の二列が並列し、それぞれの内部空間に、独立した屋根=天井形状を与えようとしたことによる。また、もう一つの働きとして、正面軒から落ちる雨量を最小にして、庇のタテヨコ樋を省略するための屋根分割でもある。

外観
敷地は、幹線道路からは旗竿の形となっていて、街並みを形成するような建築とはなれない。一度敷地に踏み込めば、同一敷地(法規上は分割)には、2F建の事務所ビルが、背後の隣地には、2F建のアパートが、幹線道路側には、13建のマンション、と、ボリュームも形式もバラバラな、用途地域の境界上に発生している日本の現代都市の雑立風景である。そこに、日本酒や焼酎といった、日本の伝統的な酒造りを、共に未来に伝えようという蔵元が定期的に集結する場所=建築が挿入される。

木の使い方
昨今のコスト情勢から、2F建規模なら、木造が最適となり、酒蔵建築のイメージを想起させる木材の外壁となる。実加工による現代的な外壁工法ではなく、端部加工なしの大和貼りは、多少なりとも、端部の腐敗には有利に働くのではないか。また、全てビス止めをして、高さ方向にも重ね貼りをすることによって、将来的な部分張り替えのしやすさを考えた。これらの材料には、杉の背板を用いている。背板は製材時に発生する丸太外周の端材で、通常、廃棄、もしくはチップ化されて製材所には利益が生まれにくい部分という。日本中の製材所で、背板は発生し続けているが、八女の製材所のものは、大径木から切り出している*こともあり、まだまだ使える断面形状の背板が定期的に副産されていた。ここに値段をつけて、所定の金額で買い取る。材料代は格安だが、寸法が一定しない、三日月型の材料の加工に手間がかかる。そのトレードにより、外壁材へとアップサイクルする。これが今回の構法上のトライアルである。

(*今日では、木造住宅レベルの柱材の需要により、小径木の方が単価が高いという。だからフローリング材を取るなら、大径木となる。)

背板は木材の生きた成長部分ということで、死滅した組織の赤身に比較して、吸放湿性能が高い、つまり室内には有効に働くことになる。また、白身の部分なので、(意匠上)色が白い。また結果的にではあるが、無節に近い材料となる。**外壁に用いる場合は、水を吸いにくい赤身の方が耐久性が高いが、そもそも、赤身部分だけをオーダーすることは流通上難しいので、耐久性については、もとより高性能の木材保護塗料(タウンガード)に委ねる。

内観
特に2Fの2列の天井には、それぞれに独立した屋根形状が与えられている。背板材を含めて、さまざまな断面形状の木材を大工さんが手間を掛けて加工、現場施工することによってできた天井であるが、構造材である登梁と意匠である仕上げ材の位置関係の操作により、構造材を独立した意匠として見せるのではなく、化粧材と同化するような用い方をしている。
そこに、左官職人が現れて、彼らの柔らかい漆喰が添えられる。大工さんがつくった複雑な形状の端部にも応じながら、2種類の漆喰を、無段階のコテ捌き(グラデーション塗り)で塗り分けている。木のシャープな造形と、漆喰のやわらかな形により、大工と左官の気概がここで出会い、両翼のバランスが内観全体となることを目論みた。

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背板を使う 〜酒造組合会館〜

(背板の話は、<アダム計画>を参照されたい)

酒造組合会館は「背板」の活用を建築スケールまで拡大したプロジェクトであった。当然施主の了解を得た上で、機能上の不足を伴わないよう、細心の注意を払っての試みである。各所どのように行なったかを、蓄積として全5編以下に記す。(経年の様子は追って必ず記録しなければならない。)
(米満光平)

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背板をつかう〜背板スツール三兄弟2025

1.外壁編 〜材料代VS手間代〜
外壁三面を構成する木板は全て杉の背板である。総数およそ2000枚。背板の荒々しい背の部分を意匠として用いるのは、建物の機能上そぐわないと判断したため、背板を全て大工工務店の工場で四角形断面に製材した。背板は、場所場所で断面が全て異なる(末口ほど窄まる)ため、断面の加工精度を出すために、部分的に超える部分もあるが、長さは基本2mと限定された。立面に現れている段差は、その2mで取れるラインをベースにしている。また断面形状は、背板のかまぼこ型から決まるため、幅広になれば薄く、幅が狭まれば厚く取れる。これを2mラインの段差と合わせてデザインし、上段は幅150mm×厚さ15mm、中段は幅125mm×厚さ20mm、下段は幅100mm×厚さ25mmとした。雨切れを考慮して上の方が幅広である。貼り方は正面からステンレスビスを@300で大和貼りとし、悪くなった際はそこだけ張り替えられるようになっている。重なって隠れてしまう継ぎ目の部分は、板の小口が上向きになるため、理論上、弱点になる。大工さんのアイデアで、ここでは上部と下部の材がぶつかる隅部を斜めにカットして繋ぎ合わせることで、水切れをよくするという対処をおこなった。塗料はタウンガード(丹宇)を表裏二回塗りし、知る限り最上級の耐久性を持たせた。とは言え、背板は所謂辺材で、反りやすい性質があるため、丸太でよくやるような背割りを木裏側に全数施し、反りの力を弱めるための工夫をした。また仮に反ったとしても漏水をしないよう、万が一を考慮して、胴縁を打った上からもう一度防水シートを貼り、二重の防水層を確保した。一般的な壁内通気層がなさそうに見えるが、大和貼りにすることで、二重目と一重目の間にわずかな隙間が空き、それが壁面全体を覆うため、壁内の湿気対策となっている。余談であるが、実はこの大和貼りの中に既製品の換気扇の吹き出し口を隠蔽しており、この隙間を利用して最終的に外部に吹き出されるようになっている。胴縁間の隙間は全て通じているため、開口面積も十分すぎるほどだった。
話が長くなったが、お分かりの通り、外壁には工場での加工手間と現場での作業手間がかなりかかっている。しかしその分材料費は安く仕入れることができるため、その収支のバランスが鍵である。誰もやったことのない事例が故、どうなるか分からない状態であったが、この話に快く乗り、見積り金額通りに進めて頂いた山下建設には心から感謝したい。しかし結論を言えば材料代の減<手間の増であった。この矢印が逆転するための方法や意匠にはまだまだ検討の余地がある。

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2.天井編
天井は断面形状の異なる製材をベースにしつつ、アクセント的に背板を使った。ここでは長さ4mが必要であったため、断面は末口で30×30程度としている。また小断面のため、荒さが見えても良いだろうという判断をし、背をそのまま見せる意匠とした。貼り方は梁間でくり返しになっているが、背板の断面は当然全て異なっており、元口になるとその差はかなり顕著になるため、全体としてランダムに見せることができている。現しにした登り梁は、頂部を突き合わせにせず、あえてすれ違いにさせたことで、天井に貼る板や背板にも頂部でずれが生じ、構造と化粧が一体で互いが噛み込んだような意匠となった。

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3.エアコン隠し編
プロダクトでの経験上、薄くスライスすれば、背の荒っぽさを消していけることが分かっていたため、エアコン隠しは隙間を15mm空けて、厚み9mmの背板を使った。プロダクトと異なる点は、あえて元の背の通り並べなかったことで、各断面の鋭角になった部分が強調され、全体が波打ったような意匠とすることができた。建具屋の手間も普通に格子を組むのと変わらないため、可能性を感じさせる出来だった。先端が背の形状に伴って変形しているためか、風の抜けも問題なく、むしろ到達距離が伸びているような印象すらあった。風洞実験を行って確証が得られれば、いよいよ可能性がある。

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4.格子戸編
エアコン隠しと同様、背板による格子を作った。隙間15mm空けの、厚み15mmの背板としたが、箇所数が多いため、空間とのバランスを考慮して、背を内側に向けるものと外側に向けるものを2:3程度の割合でバラバラに混ぜた。エアコン隠しと違い、静かに波打っているような感じで、もう少し攻めても良かったかもという感想。材の反りを防止するために幅は15mmで設定したが、横桟を追加するなどして、もう少し薄くできた。また15mmでかつ目線に近くなってくると、やや荒さが目立ち始めるため、納品後に気になる箇所はペーパーを当てるなどした。
空間と用途に対しての荒さのバランスはかなり難しいところで、特に現代建築において木の表皮に近い部分を空間に活かす意匠は発展途上にある。蓄積がない分、良い事例となった。

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5.手すりブラケット編
とにかく使える箇所には背板を使った。幅35mmの背板を造作してブラケットにするのであるが、図面は中央が山になった断面の背板を想定して書いたが、現場に運び込まれた背板は、片流れのような断面で、板の表と裏で全然幅が違っていた。図面通りでは納まらなかったため、材料に直接鉛筆書きをして加工してもらい、なんとかその材料で納めることができた。
小部材として背板を扱う場合や、寸法がシビアな場合は、材料断面が動くことを十分考慮していないと、納まらない事態が発生するため注意が必要である。極論、現場で材料をみてから形を決めた方が正しいかもしれない。

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配置図
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1階平面図
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2階平面図
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西側立面図
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南側立面図
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西側立面図
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北側立面図
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短手断面図
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長手断面図1
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長手断面図2
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そのまえ