2024. 7. 26 permalink
中庭 竹鞠灯籠
冷ガーデンを開催するにあたり、中庭に竹鞠灯籠を設置することになった。
わざとらしく緑に塗られた既製品では、百年蔵の景観に合わないと判断し、自分達で竹皮を編んで製作することに。完全に見切り発車であったが、程なく後悔することになる。
まず材料の竹皮だが、これが手に入らない。青皮の付いていない平ひごなら、その辺のホームセンターでも売っているが、皮付きとなると話が違う。材木屋はもちろん、竹細工を専門とする業者ですら取り扱っていない。最初にして最大の誤算である。
しかし今さら、出来ませんでした、では通らない。幸い、事務所にはテーブルソーに卓上カンナと、最低限の機械は揃っている。やってやれないことはない、材料から自作するのである。
まずは近所の藪へ、白昼堂々忍び込み、育ちの良い青竹を伐り出す。出処を聞かれれば、言葉を濁すしかないが、正真正銘、国産の真竹である。
さて、市有地から失敬してきた青竹は、伐ってすぐには使えない。縦に割り節を削った後、1週間ほど寝かせて余分な水分を抜いておく。これを怠ると、薄く削った際に断面が丸く反ってしまう。程よく乾燥させたら、1本ずつカンナに通して内側の身を削る。なるべく厚みが一定になるように、指先で押さえの強弱を計りながら削ってゆくのだが、瞬く間に気力と集中力は削がれてゆく。結局、1本の竹から10本の竹ひごを削り出すのに3時間を要した。この作業を300本、言葉以上に気の遠くなる作業だった。
およそ効率的とは言えない作り方ではあるが、とにかく材料の目処が立ったので、本製作に入ってゆく。
当然だが、自分一人でやっていては、到底間に合わない。やむなく、学生バイトに任せることにしたが、一つ問題があった。製作工程が手順化されていないのだ。製作風景自体はYouTubeに公開されているのだが、相手は本職。動画内の手際の良さに、まるで頭が追いつかない。動画を一時停止しながら職人の手元を拡大し、プラモデルの設計図のように手順書を描き起こしたが、この作業だけで半日を費やした。
他人に作業を任せるとは、なんとお膳立てに手のかかることか。
どうにか本製作までは漕ぎ着けたものの、その先もやはり難航した。
今までに竹を編んだ経験がある者など誰もおらず、果たしてこれが正解なのかも分からずに、手探りでのスタートであった。原寸大で印刷した手順書を下に敷き、その上に竹ひごを並べて編んでゆく。ここで編み方の上下を間違えると、その後の作業が全て最初からやり直しとなるため、最も気を使う工程である。この先は皆で輪を作り、自分が手本を見せながら進めていったが、想像以上に手間取った。竹ひごを球体に編んでゆくのだが、とにかく竹が言うことを聞かない。1週間乾燥させたとはいえ、青竹はしなりが強く、手を離すとすぐに滑ってバラけてしまう。解決策として手間はかかるが、編み進めた箇所をひとつひとつビニールタイで留めることにした。動画で見た職人はこんな小細工はしていなかったが、我々素人は素人なりの工夫で追いすがるしかないのである。とはいえ、この小細工の効果はなかなかのものであった。初め1個作るのに6時間かかっていたのが、慣れもあるだろうが2時間にまで縮んでいた。ここまで来れば学生に任せておける、あとは材料の竹ひごをひたすら削り出すのみである。
そして着手から1ヶ月、ついに30個の竹鞠が完成した。この間に指を怪我して病院の世話になったり、材料が足りず二度目の密猟も行なったのだが、余白がないので詳しくは書かないでおく。
最後の仕上げに、完成した竹鞠を防腐塗料に浸して乾燥させる。30個の竹鞠が竿に吊り下げて干されている光景は圧巻だった。思い返せばこの1ヶ月、竹ひごを削るか竹鞠を編むか、しかしていない。夢にまで出てきた作業からようやく解放されるのだ。
野見山 雅也