【左官技術による装飾的修景】2022/1/14
古家の改修事例において,土壁(土)のヒビなど「粗さ」を意匠としてあえて残す傾向を感じることがある.
他にも,リノベの類において,そっくりそのままやり変えない部分的補修を施し,新旧部分の差異を対比的な意匠として前向きに捉えることもしばしばである.
「酒宿いそのさわ」でも状態と空間を鑑みながら,旧状をそのまま残す部分は残して「みせる姿勢」をとっていたり,部分的な補修による新旧差を意匠としている場合が多い(経済的状況も影響する).
一方で,些細な破損箇所や汚れの残る部分.
こういった所は,周囲と同化する部分的な補修(同素材の使用等)で済ませる事が可能なのだけれど,=上記のような意匠的表現に発展することがない(必要は,ない).
ただ,こういったところで,キズや汚れの補修を前提としながら,機能的な意味(必要性)からは少し切り離して,記号的補修を試みる.
純粋に図柄のコンポジションが美しいか,文様はどの文脈から引っ張っているか,装飾的意味と空間の関係を考え,それらが,ある種ナラティブに合致することで,空間へほんの少しの驚きが生まれないか.
モノとして新鮮に写って,「なるほど」と意味が後から付いてくれば,それで良いように思う.
/写真・文 西野
【孟宗竹の採集/地産 学生参画其の二】2022/01/21
「そのまえ2021/12/13」で紹介したように,福岡大学の大学院生が「うきは酒宿いそのさわ」を題材に、実施設計 X 設計課題に取り組んでいる(詳細は前項記載の為,割愛させていただく).
この日は,今年度の学生最後の設計+制作物の完成に向けて,日本では最も径が太く成長すると言われる孟宗竹<モウソウチク>を採集しに,うきは 酒宿いそのさわ 別邸のある田篭、馬場地区へ.
地域住民の方に大変,大変にお世話になりながら,2m物に加工した新鮮な孟宗竹を30本ほど.
(別件で他所と行き来しながら,立ち会うはずだった筆者は,切り出しがあまりにも早く,冒頭ほんの数分しか見届けられなかった.)
竹を素材に採用した空間づくりというだけで,コンセプチュアルに聞こえ,見えてしまうが,それに負けない空間構成やギミックが施された採集(最終)成果物を,みな期待している.
其の三へ続く.
/写真・文 西野
【酒宿の半什器 学生参画其の三】2022/02/10
北庭の一角に数本の孟宗竹を植えつけた.
わけではなく
いくつかの定尺で輪切にされたのち,金物で緊結され,整然と据えられた竹の人工物が,庭によく馴染んでいた.
表題の通り福岡大学大学院で建設工学を専攻する学生4名が納品してくれたものである.
(彼らが受講する授業の一環で「そのまえ:学生参画其の一」を参照いただき,詳細は割愛させていただきたい.)
酒宿の庭にノックダウン,あるいは汎用性のある構法によって,日本酒を嗜めたり,ビールが飲めたり,時にはワインを…いや,ここを訪れた人が集える東屋を設計・制作してもらった.
といっても屋根が,無い.
故に筆者の独断で半什器と表現させてもらう.
竹の構造物にパッと抱く,職人技術によって結ばれるジョイントや,しなやかな曲線美とは異なり,野太く成長する孟宗竹をインダストリアルに結合し,碁盤目状に配置された,ありそうでない構造物に仕上がっている印象.
空間の拡張可能性を展開させたのち,仮設で屋根を架ける仕組みが噛み合えば,半什器から建築となるように思う.
こう偉そうに述べるのも,実のところ筆者も学生時代にこの場を題材にした課題に取り組んだ経緯があるからで,彼らは母校の後輩にあたる.
私は,そのまま弊社になだれこんだ.
5年の歳月を経て,課題受講生・アルバイト・実施設計の担当を経験し,毎年,この課題を見てきたからこそ,今年度は竣工とも重なり,非常に感慨深い.
至極個人的かつ粗末な文章で,学生参画については,一旦〆とさせてもらう.
照明と合わせて,実際の空間づくりと課題を両立させた学生を労いたい.
/ 写真・文 西野
2022/2/10 髙木
今年の福大の大学院生に、事務所で進行している(事業)プロジェクトの一部に対して、実作を「納品」してもらう課題に取り組んでもらった。
いそのさわ主屋にとりついている照明器具やフォリーは、いそのさわ主屋にあるから、という理由で、無理くり、現場での最終講評。基本、先生方は本学にリモート配信だったが、4名の先生もわざわざこのために脚を運んでいただいた。おそらく学生がそこまでやったなら見に行ってやろう、という親心に間違いない。学生も「課題提出」ではなく、人目に晒される期日前までの「納品」であったから、次元の異なる緊張感があっただろう。長谷工コンペに始まり、実施プロジェクト関連で3課題、合計4課題×4名分を2時間に詰め込んで、酒蔵主屋を移動しながらの、生放送テレビ中継的講評会は、なんとか、かんとか終えることが出来た。
その後は、かの有名な、ばあちゃん食堂で、本物の地元料理(地元の人が普通に食べているもの、という意味で)を堪能し、即日課題のネタとなった伝建地区田篭の別邸を視察。自分もこうやって、先生(親分)自身の仕事を課題化したものを与えられながら、学生なりのリアリティーを感じて学生を経てきたこともあって、それを今度は自分が仕組んでいることに妙な居心地のよさを感じたりもした。